所長挨拶

 

公益財団法人佐賀県産業振興機構
九州シンクロトロン光研究センター
所長 妹尾 与志木

 

 当センター、九州シンクロトロン光研究センター(英語名:SAGA Light Source (SAGA-LS))が利用者の皆様を受け入れる形で産声を上げたのは2006年2月ですが、計画が世に出たのはかなり前でした。
1997年3月に当時の佐賀県科学技術会議(座長:佐古宣道佐賀大学学長)がまとめた「佐賀県科学技術振興ビジョン」の提言書において、初めて「小型放射光(シンクロトロン光)研究施設等」の文言が出てまいります。具体的な施設計画が明らかにされたのは、1999年5月に佐賀県が制定した「シンクロトロン光応用研究施設基本計画」においてです。
当センターは5項目の施設設立の目的(『当センターHP>SAGA-LSについて>目的』(https://www.saga-ls.jp/main/83.html)参照)を掲げておりますが、これは同計画書において定められたものです。この目的の最初に「地域産業の振興と新規産業の創出」が掲げられています。県立の施設ですから当然とお考えになるかもしれませんが、高難度の実験設備を共用施設として大学等の研究者に提供する形で始まったシンクロトロン光研究施設としては、非常に画期的な設定でした。当センターは産業振興を設立目的の筆頭に掲げた日本初のシンクロトロン光研究施設です。

 地域産業とシンクロトロン光を用いた研究とを結びつける作業は容易ではありません。設立から2015年度くらいまでの間は、県立の試験研究機関に積極的に利用していただき成果創出の努力を行っていただきました。
シンクロトロン光照射による作物の新品種創出や改良の試みは、その一例で農業試験研究センター等の機関で現在も継続されています。
2019年度より当センター内に産業利用コーディネーターの職を設け、主に県内の企業に回らせていただき技術的な問題点をお伺いしております。ご相談いただける事案の中で80~90%は当センター以外の手段のほうが解決に適したものですが、これらについては工業技術センターに繋ぐ等の措置を講じて解決に協力をしております。残りの10~20%の課題に対して、SAGA-LS利用を前提として研究員にもその課題解決作業に加わってもらい進めています。ここ2~3年で、県内における企業の方々のSAGA-LSの利用が非常に増えております。

 日本で最初にシンクロトロン光を利用した研究センターが稼働を始めたのが1982年で高エネルギー加速器研究機構のPhoton Factoryという施設でした。これは同時に世界最初の共用施設で、前述のような「大学間共用研究施設」が基本です。現在でも日本国内の全施設で同様な基本方針を持っておりますが、近年、わたしたちSAGA-LSは、この「受け身」の立場から一歩踏み出して、施設を利用する方々の課題解決に対して共同研究などを通じたパートナーになることができないか、そのような模索を始めています。私たち自らが利用者の皆様の課題を咀嚼し、シンクロトロン光を用いた分析で解決の道が無いか考え、提案していこうというものです。
2020年から運用を始めている「包括利用」の制度は、県内の利用者の皆様に代わってSAGA-LS研究員が実験計画策定、実験実施、報告書作成まで行うことのできるもので、いわばそのような試みの先駆的な活動と言えます。
このような活動において、ここ1~2年はその端緒として設立当初と同様に、県立の試験研究機関の皆様にまずパートナーになっていただくことを考えています。

 以前からHP上でお知らせしておりましたが、2023年度より利用制度を従来から大きく変更しています。最初のカテゴリー分けが、「県内」と「県外」になっており、県立施設としての姿勢をより鮮明に打ち出した形になっています。Photon Factory稼働開始の時代と比較すると、施設の数も格段に増え、また「産業利用」も非常に重視されるようになりました。言い換えれば、各施設ともに自身の施設の「色」をきちんと意識して打ち出すことが求められる時代になっています。
SAGA-LSの最大の色は言うまでもなく地域産業への貢献そのもの、またその貢献のための道筋づくりです。
ただ、ここで忘れてならない点は、シンクロトロン光に関わる研究のような活動は、ひとつの県の県内のような狭い範囲に限定できるものではないことです。県外からお越しいただいている研究者の皆様の活動、あるいはSAGA-LSの研究員が行っている研究活動などはいずれも全国あるいは世界規模のものです。これらの活動やその成果がSAGA-LSに蓄えられる研究に対する力そのものです。さらに、このような基礎科学に根差した研究成果は、多くの問題に対する共通項的な部分を必ず有しています。
佐賀県への貢献の結果は間接的な意味で、あるいは直接的に九州へ、あるいは日本全国へ波及していくことができます。私たちはそれを強く意識しており、佐賀県への貢献の延長線上にその道筋が具体的に描けるような状況を目指しています。

 2023年度は大きな節目の年となりそうです。より良いサービスを皆様にご提供できるようになるため、今後とも様々な施策を考えそして実行に移していく方針です。今後ともSAGA-LSをどうかよろしくお願い申し上げます。

2023年4月