所長挨拶

 

公益財団法人佐賀県産業振興機構
九州シンクロトロン光研究センター
所長 妹尾 与志木

 

 当センター、九州シンクロトロン光研究センター(英語名:SAGA Light Source (略称:SAGA-LS))は、2006年2月に利用者の皆様の受け入れを開始しており、2024年2月で18年が経過したことになります。設立の目的は、1999年5月に佐賀県が制定した「シンクロトロン光応用研究施設基本計画」において定められた5項目で(『当センターHP>SAGA-LSについて>目的』参照 )、最初の項目に「地域産業の高度化と新規産業の創出」が掲げられています。この目的やその基盤となる考え方そのものは現在も全く同じですが、それを実現させるための道筋の構築、といった観点からはいろいろな変遷をたどって今にいたっています。

 地域産業振興のためにシンクロトロン光を利用する、そのことは決してたやすいことではありません。2006年に開所して以降しばらくの間は、県内の皆様に利用していただく端緒として県立の試験研究機関にいろいろな研究の試みを行っていただきました。シンクロトロン光研究施設の代表的な貢献先は製造業ですので、工業技術センターや窯業技術センターに利用を試みていただいたのはもちろんですが、佐賀県の場合第一次産業も主要な産業であり、その分野に関わる県立試験研究機関が非常に多いのが特徴です。第一次産業関連の研究にも着手していただきました。農業試験研究センターや果樹試験場によるシンクロトロン光照射による突然変異育種や、玄海水産振興センターによるケンサキイカの生態解明などの例があります(『当センターHP>利用報告・事例>その他報告書>その他報告書 平成23年度』参照)。これらは前例の少ない独自性の高い研究であったと思いますが、反面困難性も高く、農業試験研究センターの突然変異育種など一部を例外として、現在ではほとんど研究を継続できていません。当センターに十分支援できる力や体制がなかったことも事実です。

 今までに何度か書いておりますが、県立施設として県内への貢献に組織的に取り組むために、当センターでは2019年度から新たに「産業利用コーディネーター」の役職を設け、専任で動く職員を配置しました。主に県内の企業の皆様方のところを訪問させていただき、技術的な課題解決のお手伝いをしながら、その中にシンクロトロン光の利用が有用である課題を見つけ出して当センターの地域産業貢献へと導いています。この活動に加えて最近では、設立間もない頃と同じように県立の試験研究機関の皆様と密に交流を持たせていただき、研究テーマとなる課題発掘やその解決に向けた研究に動き出しています。林業試験場が1960年代より開発を進めてこられた次世代スギ精英樹(サガンスギ)について解析を行い、その強度要因の解明に至った事例も出てきました(『佐賀新聞』(2023年7月27日朝刊)参照)。本研究課題につきましては、今年度このような樹木の強度要因の解析を定常的に行えるように、当センターBL15に専用の測定設備を設ける準備をしています。そのほか、有明水産振興センター、果樹試験場、畜産試験場などの方々とも、現在研究テーマの探索を行わせていただいております。

 一方、日本全体に目を向けると、新しいシンクロトロン光研究施設であるNanoTerasuが2024年4月より稼働を開始され、日本のシンクロトロン光関連施設は9機関、10リングの体制になりました。今後、シンクロトロン光に関わる科学技術の進歩を各施設で協力して図っていくことは無論のことですが、それと同時に各施設の独自性もますます重要になっていくと考えられます。各施設が独自の得意分野を持ち、それらを統合して日本全体で、あるいは世界全体で発展を遂げていくというシナリオが必要です。当センターはその一角を担う小さなピースではありますが、県立の試験研究機関の皆様とも協力しながら、第一次産業に関わる解析をひとつの独自分野としてこれらの発展に貢献していこうと考えております。

 どうか今後とも当センター、SAGA-LSをよろしくお願い申し上げます。

 

2024年4月