BL11 装置概要
XAFS測定装置
第2実験ハッチ内の実験定盤上には、4象限スリット、試料ステージ、イオンチャンバー等X線検出器等が設置されており、XAFS測定装置として利用することができます。
BL11 でのXAFS 測定対象元素は、主に「第4周期元素(Ti ~ Kr)のK端」と「第6周期元素(Cs ~ Po)のL端」です。また、高調波抑制ミラーと低エネルギーX 線利用XAFS 計測システムを使用することで、より低エネルギーの吸収端を持つ元素(P ~ Sc等)も、測定可能です。

黄色:K端
緑:L端
オレンジ色:K端(高調波抑制ミラー使用)
水色:L端(高調波抑制ミラー使用)
BL11のXAFS測定装置で測定できる元素
入射光学系
X線シャッター
- タイプ:リボルバー式(うち1つを鉛板とすることでシャッターとして利用)
4象限スリット
- 分解能: 1 μm
- 開口量:水平垂直とも最大10 mm
- 水平位置調整:±10 mm
- 垂直位置調整:±10 mm
試料ステージ
ステージ
- X-Zステージ(θステージ付)
<分解能>
- Xステージ(SGSP26-150:シグマ光機): ストローク 150mm
- Zステージ(SGSP26-100:シグマ光機): ストローク 100mm
- θステージ(SGSP-80YAW:シグマ光機): 分解能 0.0025°
<試料ホルダー取付け穴>
- タップ穴(M16P1)
- タップ穴(M4×4箇所、間隔 25mm角)
試料ステージ(左)およびステージの図面(右)
試料マウントの例
試料ペレットを貼り付けた35mmスライドマウント(50mm×50mm)を、
ステージに取り付けたFHS-50(シグマ光機)にマウントした例
※ 特殊な形状の試料セルを用いる場合には、その固定方法について事前にご相談ください。
実験定盤
- サイズ:1.2 m (L) × 1.2 m (W)
- 天板面からの基準光軸高さ:525 mm
- 定盤サイズ:1.2m(L)× 1m(W)
※ in situ 実験等で試料環境装置を持ち込まれる場合には、事前にご相談ください。
検出器と計測系
イオンチャンバー
入射X線強度用(I0)
- イオンチャンバー:応用光研 S-1194B1
- 電流アンプ:KEITHLEY 428-PROG
- V-Fコンバータ:Quantum V2F100 (100MHz)
透過X線強度用(I1)
- イオンチャンバー:応用光研 S-1196B1
- 電流アンプ:KEITHLEY 428-PROG
- V-Fコンバータ:Quantum V2F100 (100MHz)
リファレンス透過X線強度用(I2)
- イオンチャンバー:応用光研 S-1196B1
- 電流アンプ:NF回路ブロック CA5350
- V-Fコンバータ:Quantum V2F100 (100MHz)

実験定盤上のXAFS測定装置の外観
フロー用混合ガス
イオンチャンバーへのフローガスとして、以下のガスを常設しています。
- He 100%
- He 92% + N2 8%
- He 70% + N2 30%
- He 50% + N2 50%
- N2 100%
- N2 50% + Ar 50%
- Ar 100%
これらの組み合わせにより2.1keV~14keVの透過XAFS測定をおこなうことができます。
※ 14keV以上でのXAFS測定をご希望の場合は、BL07のご利用をお勧めしております。詳細は、ビームライン担当者に問い合わせてください。
蛍光X線検出器
シリコンドリフト検出器
シリコンドリフト検出器はエネルギー分解能を持つX線検出器で、希薄試料や薄 膜試料に対する蛍光法XAFS用に使用されます。これらの試料においては、散乱X線などのバックグラウンドが高く、目的元素からの蛍光X線だけを分離して 測定するため、高いエネルギー分解能を持った検出器が必要となります。
7素子SDD
Techno AP XSDD50-07(検出面積350mm2(50mm2 × 7))

1素子SDD
SII-USA Vortex-EM(検出面積50mm2)

転換電子収量検出器
転換電子収量(Conversion electron yield、 CEY)検出器は、主に、基板上の濃度が高い薄膜試料などのXAFS測定に用いられます。CEY法は蛍光法に比べ、表面敏感性と検出効率が高いという利点を持っています。
帝国電機 転換電子収量法チャンバー
旭工業所 転換電子・蛍光収量法同時計測用チャンバー

※ 計測系はI1の信号処理系を使用
※ 他ビームラインとの共用機器ですので、使用予定のある場合はビームライン担当者に連絡の上でスケジュール調整をおこなってください。
低エネルギーX線利用XAFS計測システム
3.5keVよりも低いエネルギーを使用希望される場合は、大気によるX線の減衰に対応するために低エネルギーX線XAFS測定用チャンバー(テンダーXAFS装置)を使用する必要があります。本チャンバーを用いることで、測定試料をHeガス雰囲気下に置くことができ、高調波抑制ミラーとの併用により、2.1 keVからのテンダーXAFS測定を行うことが可能となります。本システムでは、転換電子収量(CEY)法、蛍光X線収量法(FY)、および透過法での測定が可能です。
低エネルギーX線利用 XAFS計測システムの外観(左)、
および転換電子収量法で測定したDNTT薄膜のS K-edge XANESスペクトル(角度依存性)(右)

高調波抑制ミラーチャンバー(2枚のNiコート平面ミラーを使用)の外観
試料環境
低温測定用クライオスタット装置
試料温度を15Kから室温の間で変化させてXAFSスペクトルの測定を行うことが可能です。測定手法に、透過法、蛍光X線収量法を利用することが可能です。
・Advanced Research Systems, Inc. DE-202SE/ARS-4HW
温度範囲 | 15 K ~ 室温 |
---|---|
試料形態 | 粉末(ペレット)、フォイル等 |
試料サイズ | ペレット:Φ10 mm、フォイル 10 × 15 mm2程度まで |
クライオスタット装置の外観(左)、低温(15 K)と室温(298 K)で測定したCu K-edgeのEXAFSスペクトルの比較(試料:Cuフォイル)(右)
高温炉
封入したペレット試料の温度を室温から1073Kまでの範囲で調節しながら透過XAFS測定をおこなえる高温炉が利用可能です(他BLと共用)。
試料温度を、室温から高温(透過法:1073 K、蛍光法:873K)の間で変化させて、XAFSスペクトルの測定を行うことが可能です(他BLと共用)。また、同時にガス除害設備を使用することにより、水素雰囲気下等でのin situ XAFS測定が可能です。
石英製加熱炉装置の外観(左:透過法用、右:蛍光法用)
ガス供給・除害装置
上記した高温炉等にガスを流量調整して供給し、ガス漏洩時には緊急停止・バルブ閉止をおこなうための「ガス供給・除害装置」が利用できます。
利用申請前に必ずガス利用に関する事前打ち合わせが必要です。また、利用するガスは、原則としてユーザー持ち込みです。

ガス供給・除害設備(可燃性ガス用キャビネットの外観)
測定制御システム
ビームラインのPCにインストールされた測定ソフトウェアを用いて、
- ステップスキャン法 (透過法 / 蛍光法 / 転換電子収量法)
- クイックスキャン法 (透過法のみ)
でのXAFS測定が可能です。この測定ソフトウェアでは、計測系電流アンプのゲイン設定や分光器チューニングがすべて自動でおこなわれます。
X線小角散乱装置
X線小角散乱(Small Angle X-ray Scattering, SAXS)は、試料にX線を照射して生じる散乱X線のうち、散乱角にして数度以下の領域を測定・解析することにより、試料内に存在する数nm ~ 数百 nmオーダーでの規則構造や粒子サイズ・形状などいった構造情報を取得することができる手法です。
BL11のX線小角散乱装置では、標準的な使用条件である「入射X線エネルギー = 8 keV (1.55 Å)、ビームサイズ0.5 mm × 0.5 mm)で、最大約 1 nm ~ 250 nm までの構造情報を得ることが可能です。
どのような条件(入射エネルギー、試料-検出器間距離、ビームストッパ径)で、どの範囲の構造情報が得られるかは、シミュレーションソフト(※1)等で検討することができます。
※1 https://mas-ka.github.io/xutils/calq/index.html
光学系構成
第1スリット / 第2スリット
- タイプ:ナイフエッジブレード4象限スリット(自動)
- 分解能:1 μm
- 開口量:水平垂直とも最大10 mm
※ 長さ2m以上の真空パスを用いる際には第2スリットは使用できません
出射スリット
- タイプ:ナイフエッジブレード4象限スリット(手動)
- 分解能:100 μm
- 開口量:水平垂直とも最大10 mm
シャッター (オプション)
- 方式:ロータリーパルスモータによるアルミ遮蔽板の開閉
- 開閉速度:数百ms以下
真空パス
長さ500 mmと1000 mmのアクリル製真空パス(内径200mm)を複数組み合わせることで、500 ~ 2500 mmまでの真空パスを設置することができます。

真空パス長 = 2500 mm の場合

真空パス長 = 1000 mm の場合
真空パス内部の検出器側にはフライング式ダイレクトビームストッパーを設置することができます。利用可能なビームストップ径として、
- φ3 mm
- φ5 mm
- φ8 mm (PINダイオード組み込み)
を準備しています。

フライング式ダイレクトビームストッパー(左からφ3mm, φ5mm, φ8mm)
試料ステージ
透過配置用試料ステージ
XAFS用試料ステージをSAXSの透過配置用試料ステージとして用いることができます。ステージの性能諸元はXAFS測定装置を参照してください。
反射配置用試料ステージ
微小角反射(Grazing Incidence angle, GI)小角X線散乱測定用に、RxRyスイベルステージを搭載した試料ステージを準備しています。
試料ホルダー
中央にX線透過用の穴(φ2mm)が開いたアルミプレート(50 mm×50 mm)を試料ホルダーとして用意しています。板状および薄片状試料は、このプレートに粘着テープで貼り付ける等して測定することができます。また、溶液試料を封入したX線用石英キャピラリをプレートに貼り付けて測定することも可能です。
溶液フローセルや試料加熱装置を持ち込んで in situ 測定を計画している場合には、それらの固定等について事前にビームライン担当者と打合せをおこなう必要があります。
検出器
入射X線強度測定用
入射X線強度用イオンチャンバー(I0)
- 型番:S-1329A1(応用光研)
透過X線強度測定用
透過X線強度用イオンチャンバー(I1)
- 型番:MIC-205(ADC USA)
試料ホルダーと真空パスの間に設置され、透過X線強度測定用に用いることができます。
シリコンPINフォトダイオード
- 型番:ビームストップ型X線PINダイオードBSD5MM (Xenocs)
- 検出面積:1.8 mm × 1.8 mm
- ビームストップ径:φ8 mm
- アンプ:XPD100 (Xenocs)
8mm径のダイレクトビームストッパーに組み込まれたX線PINダイオード検出器で、真空パス内の検出器側に設置され、透過X線強度測定用に用いることができます。
小角散乱パターン測定用
X線ピクセルアレイ検出器 (DECTRIS PILATUS300K)
- 検出面積:83.8 mm × 106.5 mm
- ピクセルサイズ:172μm × 172μm
- ピクセル数:487 × 619
- フレームレート:500 Hz
- 読み取り時間: < 1 msec.
- 点像分布関数:1 pixel (FWHM).
- 最大カウントレート:1×107 photons/srec./pixel
- ダイナミックレンジ:20 bit (1,048,575 counts)
検出器ステージ
- 検出器高さ調整軸:検出器中心より±50 mm
測定制御システム
最大200Hzでの時分割測定および外部トリガーによる同期測定が可能な測定制御ソフトウェアを用意しています。このソフトウェアでは、測定開始時の分光器チューニング・I0およびI1の積分強度・シャッター制御が自動で同期しておこなわれます。
測定された散乱像はTIFFファイルとして保存され、FIT2D(※2)等による積分・一次元化といった解析が可能です。